4層構造による性格論(2)

◉ 気 質

「気質」をうまく説明するのはとても難しいです。人は、生まれたときには何モノにも染まらず真っ白だ・・などと言いますが、これは真っ赤な嘘です。生まれたての赤ちゃんにもそれぞれの個性がすでに備わっています。外界をどのように認識しているのか、どのように関わるのか、そうしたものをすでに身につけて誕生してきているのです。それを気質と呼びます。

昔、まだ人権思想が確立する以前、イギリスの乳児院において、同じ年齢の赤ちゃんたちを対象に乳児期から児童期までのあいだ、さまざまな研究実験が行われました。乳児院を出てからも、彼らが壮年期を迎える頃まで何十年にも渡って追跡調査が行われ、それぞれの赤ちゃんがどのような人生を歩んでいったかを克明に記録したものです。

実験のひとつに、次のようなものがありました。生まれたての赤ちゃんたちを二つのグループに分け、片方には夜間何時であろうと、赤ちゃんが泣いたらすぐに抱っこしてミルクを飲ませます。もう片方のグループは、夜間に赤ちゃんがどんなに泣こうが、夕刻から朝の間(夜間)はミルクを飲ませない、という対応をとります。当時の乳児院では、規則によって夜間にはミルクを与えない方針で運営されているのがふつうでした。

実験の結果、夜間でも泣いたらすぐにミルクを与えられた赤ちゃんグループと、朝まで放置されていた赤ちゃんグループでは、幼児期以降に表われる性格の傾向が、かなり明確に分かれることが判明します。

養育者の対応によって形成される個性。それが「気質」を包み込むようにしてでき上がる「狭義の性格(人格)」となります。

ところで、この実験によって生まれたての赤ちゃんにも、すでに性格的な違いがあることが判明します。

夜間にミルクを与えられなかった赤ちゃんグループは、毎晩お腹がすくとミルクをほしがって泣くのですが、いくら泣いても何も起きません。すると、だいたい2週間ほどでほとんどの赤ちゃんは泣かなくなります。

これは赤ちゃんが学習して聞き分けがよくなった訳ではなく、諦め、無力感が心を支配して泣かなくなるということです。

しかし2週間以上経っても、夜中に元気よく泣き続ける赤ちゃんが何人か存在したといいます。3週間、4週間経ってやっと、泣かなくなります。他の赤ちゃんよりも長期間泣き続けるしぶとさ、強さ、根性。これこそが、「もって生まれた性格=気質」というわけです。

もちろんこれはわかり易い行動として挙げた一例で、気質は人の数だけ多様に存在します。生まれたときから存在する個性、複数のお子さんを育てたお母さんなら、同じきょうだいでも、はっきりとした違いがあることがよく理解できるでしょう。

この「気質」は、ほとんどが親からの遺伝(親に似るということではなく、親から遺伝子を受け継ぐという意味)と、残りは胎児時代に形成されたもの、と推測されています。(つづく)