4層構造により性格論(7)

 

◉ 習慣的性格

前回、
「性格は変えることができる」という場合、この第3層目の「習慣的性格」を指す------と記しました。では、4層目の性格「役割性格」は変えられないのか、という疑問がでてくると思います。「役割性格」というのは、社会での様々な場面・状況に適応するために形成された性格で、状況に応じて瞬間的に変えることができます。

たとえば、家庭・学校・会社などにおいて、所属するそれぞれの社会集団及びそのメンバーに合わせて意識的・無意識的に変えたり変わったりする性格のことです。たとえば、家庭では優しい父親の顔、職場では厳しいビジネスマンの顔というふうに。ある意味、実社会で「役割性格」を上手に適応させるということは、大人である証と考えてもよいでしょう。

その「役割性格」は、それ以外の3層「気質」「狭義の性格」「習慣的性格」を基盤に形成されます。特に「習慣的性格」と連動して表出されるので、「役割性格」を変えるためにはまず、役割性格の基盤となる習慣的性格の変容が必須であると意味で、「性格を変える」というのは第3層目の「習慣的性格」を変えることを指す------としたわけです。


■「習慣的性格」とはどういうものか

「性格の(同心円)4層構造説」を唱えたのは、心理学という学門分野を広く世間に知らしめた心理学者の宮城音弥でした。私が青少年期のころ、本屋の心理学コーナーには宮城音弥の本がずらりと並んでいましたっけ。宮城音弥の解説したフロイト関連の書籍に接し、氏の精神分析への深い理解と論理的不備をつく容赦のない批判に、ひじょうな感銘を受けたことを思い出します。宮城音弥の、権威に惑わされない筋金入りの学者・研究者としての姿勢がとても好きなのです。


閑話休題。
宮城音弥は、第3層目の「習慣的性格・態度」を、住んでいる国・地域の文化的慣習や日常の生活習慣によって形成されていく性格の部分、と定義しています。別の言い方をすれば、先述した「自らの置かれた環境の中で、自分を守るために身につけた役割や手段を、習慣的に反復することで形成された個性」ということになるでしょうか。

宮城音弥『日本人の性格・県民性と歴史的人物』樋口清之 の『出身県でわかる日本人診断』 という本では、膨大なデータを集めて、地理・歴史・文学・伝統文化といった側面から各県ごとの県民の性格を分析し、県民性(地域の文化的習慣)という観点から「習慣的性格」を分析しており、とても刺激的な内容となっています。


もちろん生まれ育った地域だけではなく、人は誕生の瞬間より、自己を取り巻く環境すべてから影響を受けて成長します。「狭義の性格(人格)」を形成する乳幼児期(誕生~2歳頃まで)以降、幼児期から児童期・学童期、青少年期、成人期に至るまでのあいだ家庭(親・兄弟)・地域(近隣の人びと)学校(教師・友人)職場(上司・同僚)等々、様々な人から生活習慣や価値観、モノの考え方、倫理観などを繰り返し刷り込まれてゆきます

それによって形成されるのが「習慣的性格」です。

習慣的性格は主に「人とどう接するか?」「人にどういう態度をとるか?」ということに表れます。

たとえば、親が挨拶のしつけをしない家庭で育った子どもの場合、近所の人に出会って挨拶をされても、うつむいて通り過ぎてしまうという習慣ができ上がったとします。するとその子は「恥ずかしがりや」「無愛想」などというように性格認定されるかもしれません。そうした他者の目を感じると、ますますかたくなに挨拶ができなくなり、「暗い子」「不良っぽい子」などという評価が加わるかもしれません。

けれども、学校をあげて「挨拶運動」に取り組み、知り合いに会ったら必ず挨拶をすることを徹底して習慣づけられると、きちんと挨拶ができるようになる場合もあります。学校の指導どおり、知っている近所のおばさんに思いきって挨拶をしてみます。すると「あら、挨拶ができていい子ね!」などと褒められます。結果「きちんと挨拶ができる子」「しっかりした子」などと性格認定されるかもしれません。すると嬉しくて、ますます元気に挨拶ができるようになり、「明るくて活発な子」という評価が加わるかもしれません。


上の例のように、学校で挨拶を習慣づけられても、なかなか挨拶ができない子もいます。それは遺伝的要因の「気質」や乳児期の養育者との関係性に依る「狭義の性格」との重層的相互作用が影響している場合もあるからです。それでも社会人となってから、本人の自覚と意志によって礼儀正しく振る舞えるようになったりするのが「習慣的性格」なのです。

また、挨拶するときに「にっこり笑って挨拶」するか「無表情に挨拶」するか。同じ行為でも行う態度に人それぞれ個性があり、そこにも性格を読み取ることができます。


気持ちが大きく動揺したときにも、さまざまな「習慣的性格」が表出します。

たとえば会社の仕事でうっかりミスをしてしまい、上司なり先輩なりに「事前にちゃんと確認してよ!」と注意されたとします

そのときに、どのような思考が意識にのぼってくるか
「やっぱり私って何やってもダメだ。失敗ばかりしている・・」
「皆に迷惑をかけてしまった。どうやって取り戻そう・・・」
「きっと皆にできないヤツって思われている。恥ずかしい・・・」
「また私のあらを探して上から目線、自分だってミスるくせに・・・」
「ああ情けない。二度と同じミスを繰り返さないようにしよう・・・」 


その「パターン化された思考(自動思考)」気分(感情)行動に影響を及ぼし、その結果「パターン化された態度」となって表れ、その人の性格と認識されます。


生きてゆく上で出合う無数の「人や物、事態」に対して、自分は「どういう態度をとるか? とってしまうのか?」それが習慣的性格です。

「○○さんは、これこれこういう人」という場合も、この習慣的性格を指しているわけです。(つづく)