来談者中心療法

 

心理学者カール・ロジャースの提唱したカウンセリングの方法で、『来談者中心療法とは徹底して聴くことにより、相手の未知の部分を意識レベルに上げていくこと』です。

彼はフロイトやユングの流れを汲む心理学者であり、現代のカウンセリングの礎を築いた人でもあります。

 

カウンセラーと名乗る人で、この心理療法を使えない人はおそらくいないでしょう。

心理療法でカウンセラーがとる行動の大半を占めるのが、クライエントの話しを『聴き』、『聴いたことを確認する』という行為です。なかでも来談者中心療法は、これが全てのスキルと言っても過言ではありません。

理解しやすく、使いやすいというのが特徴ですが、簡単に見えて意外に奥は深く、単純に見えるからこそひじょうに難しいという面があります。

 

この療法は、「人は誰でも、潜在意識のなかに、自らをコントロールし成長させる力を持っている」という考えがベースにあります。それが、その人の中に必ずある「種」と考えるなら、そこに「安心感」という土壌が必要になります。その人が元々持っているはずの「種」の力を信じ、その種が自ら成長しようとする「力」を援助するのが、「聴く」というカウンセラーの作業です。

 

来談者中心療法では、クライエントである「種の持ち主」にカウンセラーがとことん寄り添うことで土壌を整え、何かが芽を出すのを待つという姿勢が基本となります。

 

なんだ、たったそれだけ?と驚かれる方もいると思いますが、人によってはこの方法で素晴らしい効果を発揮します。カウンセリングを受ける半分以上のクライエントは、この療法によって回復するのではないかとも考えています。

 

逆に言えば、それほどわたしたちは普段から、本当の意味で人に話しを聴いてもらえていないのだということです。たとえ聴いてもらえたとしても、多くの場合は、後に続く聴きたくもない忠告やお説教、または見当違いの励ましなどによって、理解されないことへの失望ばかりが増す結果となるのではないでしょうか。

 

例をあげて説明します。

たとえば、失恋によってひどく落ち込んでいるとき。

これまでのことを繰り返し繰り返し思い起こし、楽しかった日々や、辛かった日々、恨んだり腹が立ったり、自分を責めたり、相手を責めたり、でも未練を断ち切れない‥‥。

 

情けないと思いながらも、どろどろとした複雑な感情が胸に渦巻きます。揺れる気持ちをどうしようもなく、親友に打ち明けたとします。

そのとき「早くそんな人のことは忘れちゃおうよ、ね。ほら、元気出して!」と言われて、頭ではそうしたほうがいいと分かっていても、心底から痛手を忘れて、すぐに元気が出るわけではありません。簡単に心が変えられないから悩むのです。

 

しかし親友の手前「うん、その通りだね。元気出さなきゃ!」とその場では合わせます。しかしそれ以上は、ウジウジモヤモヤした胸の内を話せなくなり、ずっと心に抱え込むことになります。満足したのは「励まして元気を出させた」と思う親友ばかりです。

 

そんなとき、黙って話しを聴き「うんうん、そうなんだね。そうなんだね。わかるよ、いいよ。泣いてもいいよ。」とそのままを受け止めてくれ、優しく言われたらどんなに心安らぐでしょう。

 

「うんうん、そうなんだね。わかるよ、いいよ。」といった言葉がけが、すなわち来談者中心療法なのです。この言葉がけは何のアドバイスにも励ましにもなっていません。しかし確実に心に届き、効果があります。

 

「うんうん、そうなんだね。わかるよ、いいよ。」と言われた人は、しばらく泣いた後ではじめて「このままではいたくない。何か新しいこと始めようかな。」というように、自ら解決策を見つけようと元気を取り戻すことができるのです。

 

心の問題を抱える人の多くは、必ずと言って良いほど、情緒的な混乱と深い悲しみ、孤独感を持っています。

 

「こんなつらい苦しみや悲しみは誰にも理解してもらえない。どうしたらいいかわからない。どうしたいのかさえわからない。とても孤独だ。」という思いが錯綜し、頭の中でグルグルと巡っている状態です。

 

話しをすれば、誰かに聞いてもらえれば、頭の中は少なからず整理されるものです。

自分の思いが理解されたことにより、孤独感もかなり薄らいでゆきます。

しかし、実際にはこういう対応はなかなか出来ないものなのです。

 

何故かというと、実はそれがひじょうに難しいことだから。人の気持ちを理解するということは、並大抵なことではありません。

 

「話を聞くだけなら簡単だ」というのは、人の話を真剣に聞いたことがない人の台詞です。というのも、話しを聴くと、ついつい相手に何か言ってやりたくなってしまう、という性質をもっているのが人という生き物だからです。


カウンセラーから「あなたが〇〇だからだ。」とか、出来そうもないことを「やらなければよくならない。」とか断言され、よけい落ちこむクライエントがいらっしゃいます。しかし、そのように人を混乱させることを言うのは、カウンセリングを学んだことのない人です。そういう意味では、カウンセラーはアドバイザーや指導者ではないのです。

 


<来談者中心療法のカウンセラーに必要な3つの態度>

 

① 自己一致

 カウンセラーが、首尾一貫して裏表がないこと、自分自身について

 きちんと理解できていることを示す。言動と相反する感情を持って

 いる場合、クライエントは敏感にそれを見抜き、信頼関係が崩れて

 しまう。

 

② 共感的理解

 カウンセラーが、クライアントの立場に立って理解していくこと。

 しかし、クライアントと同じ状況に立って一緒に不安になる、と

 いうことではない。「自分がクライアントの立場だったらどう感

 じるか」と親身になって考え理解することが重要。


③無条件の肯定的配慮(受容)と尊重

 たとえ話しの内容がしっくりこなくても、カウンセラー側の個人

 的見解を一時的に棚の上に上げ、クライエントの話しを聴く。

 そして、カウンセリングに来談した勇気を認め尊重し、共感的・

 受容的にクライエントを受け入れる。

 

来談者中心療法によって、クライエントはより深く自分の感情や行動を探り始めす。

 

クライエントの語りを、自己一致した状態のカウンセラーが共感的に理解していくことで、クライエントはより明確に、自分の気持ちや現状を理解します。また、カウンセリングによって安心感を得ることで、カタルシス効果も高まります。

 

その結果、クライエントは自分の力で自己理解を深め、以前には気付かなかった自分の一面を発見し、自分を大切に思えるようになり、さらには自分の心の声に耳を傾けるようになります。

 

そして徐々に、自己を否定する態度から自己受容する態度に移行していくのです。