心の病のための治療

かつてヨーロッパでは、心の病を「悪魔に取り憑かれた」として、治療には主に呪術的方法が用いられてきた。日本でも、明治以前では「憑き物」や「頭がおかしくなる病気」として捉えられ、心の病を抱えた人の多くは放置されるか自宅監禁というかたちで対応されてきた。


その後、心の病もなんらかの原因による病気ではないか、科学的な解明が可能ではないか、と考えられるようになった。ルネッサンス以降、心の病に対する科学的なアプローチが盛んに行われることとなる。

科学的、実証的に数知れない試行錯誤と失敗を繰り返しまがら、一つ一つの検証の上に、本当に効果のある治療法を模索する努力が今もなお続けられている。

その治療法には2つの大きな流れがある。
一つは、脳の機能を対象とする物理的・薬物療法的な治療法「身体療法(somatic therapry)」

現在広く行われているものには、向精神薬を使った薬物療法と、電気けいれん療法、光療法、などがある。向精神薬には主に、精神安定剤、抗不安薬、抗うつ薬、催眠導入剤、鎮静催眠薬。

もう一つは、人と人との関わりによって何らかの治療的な役割を果たすという考えから生まれた治療法「心理療法(psychotherapy)」

最初宗教がその役割を果たしていたが、「宗教」という枠組みから分離し「医学」という科学の領域の一部になった。おそらく、近代においてその第一歩を記したのは、精神分析の創始フロイトからであると思う。

心理療法では、経験的・実証的にその有効性を確認し、それがどのように「治療」つながっているのか、というメカニズムの解明にも努めてきた。地道な努力を一つ一つ積み重ねることで、より効果的な治療法が探られるようになってきている。

「心理療法(psychotherapy)」は、細かく分類すると300とも400ともいわれるほど多くの流派が存在する。

その中でも、医学的見地から可能な限りの科学的検証を行い、程度の差はあるにせよ明確にエビデンスの認められる心理療法として認識されているのは次の5種類。特定の疾患に効果が高い、もしくは特定の疾患にはまったく効果のない療法も含まれている。もちろん、大前提として充分訓練を積んだ腕のいいカウンセラーやセラピストが療法を行った場合である。

 

a. 精神分析的精神療法

b. 支持的精神療法

c. 対人関係療法

d. 来談者中心療法(非指示的療法)

e. 行動療法・認知行動療法


外国では、特定の疾患に対してどの心理療法が最も効果的であるか、様々なかたちでの研究や実験が盛んに行われている。なかにはこれまでの定説を覆すような研究結果も発表されているのだけれど、日本において、カウンセラーやセラピストはもちろん精神科医にも、あまねく認知されるにはかなりのタイムラグがあるように思う。