大うつ病性障害(major depressiondisorder)

        

いわゆる狭い意味の「うつ病」です。「双極性障害」に対し「単極性うつ病」とも呼ばれます。

 

こ の大うつ病性障害(以下大うつ病)は基本的に「エピソード性」であり、数ヶ月、長くても1~2年ほどの経過のなかで、ほぼ元通りの状態に治っていくもので す。うつ病に対してよく言われる「真面目でいい人がなりやすい」というのは、この狭い意味での大うつ病についての言葉です。

 

エピソード性とは、それまで何ごともなく過ごしてきた人が、日常生活に生じた何らかの過剰なストレスによって、ある時期から急激に気分が落ち込み続けることを指します。つまり、以下に示すような発症のきっかけとなるストレッサーが明らかであるということです。

 

《職場での問題》

・昇進、異動、転勤、転職、退職

・仕事上の重責や過労

・上司や同僚との対人関係によるトラブル

 

《プライベートでの問題》

・結婚・恋愛・失恋

・離婚にまつわるトラブル

・友人や知人など対人関係によるトラブル

 

《健康上の問題》

・出産後や更年期における身体不調

・自分の健康や病気への不安

 

《家庭での問題》

・夫婦間や親子間のトラブル

・受験や就職

・引越しや自宅新築など

・家族との死別・別離

・子どもの独立

 

うつ病になるきっかけには結婚や出産、昇進、自宅の新築など、一般的には喜ばしいことも含まれます。それに伴う環境の変化が、本人が自覚しないまま、大きなストレスを生むことがあるからです。

 

実際、このタイプの「うつ病」になる人は、他人からの評価を気にしすぎる傾向にあり、自己主張を避けて他人に合わせすぎてしまう、人を頼らず自分で仕事を抱 え込んでしまう、性格的にやや脅迫的で完璧主義、うまくいかないときには自罰的・自己否定的に捉える傾向がある等・・・あなたの周りにも必ずひとりか二 人、思い当たるタイプの方がいらっしゃるでしょう。もしくは、あなたご自身が当てはまるかもしれません。

 

人が一生のうちにかかってしまう「生涯有病率」は男性では10~15%、女性では15~20%くらいではないかとされています。

 

大うつ病:抑うつ症状は「おっくう感」から

 

大うつ病でいちばん最初にやってくるのが、「おっくう感」と「だるさ」です。何をするにもめんどくさい、なかなか手につかない、面白くない、興味がわかない、という無気力な状態です。その後に「憂うつ感」がつのり、最後に「不安とイライラ」が高じてゆきます。感情的な刺激に対して敏感になり、すぐにイライラしたり自分を責めたりします。

 

うつ病は以前、誰でもかかる病気という意味で「心の風邪」と称されたことがありましたが、それが「すぐに治る病気」と誤解されるようになり、最近ではあまり使われなくなりました。

 

うつ病の状態を例えて、困難な状況下での無理が重なり「心のブレーカーが落ちた状態」という場合もあります。

 

マウス実験などでも明らかになっていますが、動物には、一定以上がんばり続けても、どうにもならない状態に陥ると、いったんやる気を失い「うつ」のような状態になることが分かっています。つまり、ある限度を超えると心のブレーカーが落ちて「うつ状態になる」仕組みがあるのではないか、ということです。

 

また、精神科医の北島潤一郎氏は著書「うつ病はこころの骨折です」のなかで、うつ病を「心の骨折」にたとえています。うつ病が回復していくまでのプロセスを考えると、とても分かりやすい表現です。つまり、うつ病も治るまでにはかなりの時間を要し、骨折してギブスが取れてもリハビリが必要なように、うつ病も完治までには充分な心のリハビリ期間が必要だということです。

 

以下はアメリカの「DSM-IV-TR」での診断基準ですが、世界保健機構(WHO)でもほぼ同じような診断基準「CD-10」を設けています。

 

日本の場合、現在ほとんどの医療機関が「ICD-10」「DSM-IV-TR」の診断基準に依って診断を行っています。

ただ、これはあくまでも判断基準なので、実際に患者と対面して受ける印象等によって、医師の臨機応変の判断も必要とされます。

 

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【うつ病の診断基準(DSM-IV-TR)】

 

(1) その人自身の言明(例:悲しみまたは、空虚感を感じる)か、他者の観察(例:涙を   流しているように見える)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑う  

  つ気分。小児や青年ではいらだたしい気分もありる。 

             

(2) ほとんど1日中、ほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退と喪失。

 

(3) 著しい体重減少、あるいは体重増加 (1カ月で体重の5%以上の変化)、またはほ

     とんど毎日の、食欲の減退または増加。       

 

(4) ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。

 

(5) 他者によって観察可能な、ほとんど毎日の精神運動性の焦燥(イライラ)また

     は制止(活動が鈍くなる)。

 

(6) ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退。

 

(7) ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪悪感に支配されている。

 

(8) 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(本人の説明

  また は家族などの説明による)。

 

(9) 何度も死にたい、または消えてしまいたいと思う。

 (上の症状のうち5つ以上が同じ2週間の間に存在し、これらの症状のうち少なくともう1つは、   

  (1) 抑うつ気分または (2) 興味または喜びの喪失である)      

 

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うつ病の診断には、他にベック式、ハミルトン式、SDS、CES-Dなどのうつ病専用の評価尺度、ロールシャッハ(補助的なもの)などの心理テストがありま す。私個人としては、次に紹介する精神科医・笠原嘉氏によるチェック項目は、簡単に行えて、尚かつ優位性の高いものだと考えています。

 

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【18のチェック項目】

(精神科医の笠原嘉氏が臨床現場で使用のチェック項目。)

 

《 朝 》

(1) 朝いつもよりも早く目が覚める。

(2) 朝起きた時陰気な気がする。

(3) 朝いつものように新聞やテレビをみる気になれない。

(4) 服装や身だしなみにいつものように関心がない。

(5) 仕事にとりかかる気になかなかならない。

 

《 仕事 》

(6) 仕事にとりかかっても根気がない。

(7) 決断がなかなかつかない。

(8) いつものように気軽に人に会う気にならない。

(9) なんとなく不安でイライラする。

(10) これから先やっていく自信がない。

 

《 家庭 》

(11) 「いっそのこと、この世から消えてしまいたい」と思うことがよくある。

(12) テレビがいつものように面白くない。

(13) 淋しいので誰かにそばにいてほしい、と思うことがよくある。

(14) 涙ぐむことがよくある。(15) 夕方になると気分が楽になる。

 

《 身体 》

(16) 頭が重かったり痛んだりする。

(17) 性欲が最近はおちた。

(18) 食欲も最近落ちている。

 

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本人だけではなく、身近な方についても観察することである程度のチェックができます。項目の多くに該当した場合は、心療内科や専門のカウンセラーに相談してください。特に注目すべきは(17) といいます。

(「軽症うつ病『ゆううつ』の精神病理」/笠原嘉/講談社現代新書より)