うつ病複雑な発症の要因


うつ病の発症メカニズムについては、未だ解明されていません。今の段階では、遺伝や体質、性格、環境、時代情勢、脳機能の低下など、さまざまな要因が複合的 に関係していると考えられています。うつ病発症をどう捉えるかついては、専門家によっても見解は大きく異なっているのが実情です。

 
前 回、うつ病にはさまざまな概念があり、その分類についてはいまだ流動的であることを書きました。大うつ病についても、症状による診断方法をDSMをはじめ いくつかご紹介しましたが、それはあくまでも表層的な目安であって、それで正確な診断ができるかといえば、否と答える精神科医も多いのではないでしょう か。
 
ここでおまけとして、症状ではなく症状を引き起こす原因によるうつ病の分類について少し書いてみます。
 

イギリスの精神科医キールホルツや日本の精神科医の笠原嘉氏は、うつ病を原因論から捉え「心因性うつ病」「内因性うつ病」「身体因性うつ病」の3つに分類しました。この分類方法は古典的とも言えるもので、心理的な誘因がはっきりしていないものを「内因性うつ病」とし、心理的誘因が特定できるものを「心因性うつ病」と呼んできました。

 
しかし研究が進むにつれて「内因性」と「心因性」の明確な区分が難しくなってきており、「内因性うつ病」という概念に批判的な研究者が多いのも事実です。
 
【身体因性(外因性)うつ病】
 
身体因性うつ病は、明らかな原因によって脳へ直接的・生理的に影響を及ぼし、その結果として生じる抑うつ症状をいいます。脳あるいは身体に生じた疾患や病変 によって、二次的に抑うつ状態を引き起こしている場合です。下位分類として「症状性うつ病・器質性うつ病」とに分けられます。
 
 器質性うつ病‥‥‥脳血管障害や脳梗塞、脳腫瘍など脳自体の損傷が
            原因となって発症する
 
 症状性うつ病‥‥‥脳以外の身体疾患である甲状腺機能低下や、消化性
           潰瘍、インフルエンザなどが原因となって発症する
         (ステロイドやインターフェロンなどの薬や毒物な
           どによって発症する場合を含む)
 
【心因性うつ病】
 
職場環境や対人関係のストレス、家族や親密な人を失う喪失体験など、はじめに心理的なトレスがあり、それに引き続いて起きる抑う症状をいいます。性格的なものや環境が、うつの発症に深く関係していると考えられています。
 
この心因性うつ病には、治りやすいものと治りにくいものがあるようです。情緒的ストレスや心理的原因によって、さらに下位分類として「疲労性うつ病・反応性うつ病・神経症性うつ病」に分けられます。
 
 疲弊性うつ病‥‥‥職場での悩みや対人関係による悩みなど、情緒性ス
           トレス
に長い間さらされることで発症長期間にわた
           
る苦痛や不快によって、精神的な疲弊が限界に達
           する状態
 
 反応性うつ病‥‥‥家族など近親者との死別、失恋、自然災害の被災、
           犯罪被害など、原因がはっきりと特定できる
症状
           が身体に出ることが特徴のひとつで
、不
           不振などがある
 
  神経症性うつ病‥‥上記のように原因がはっきりしない、本人の抑圧さ
          れた無意
識的な神経症性葛藤が要因となるいわゆる
         「抑うつ神経症」
と呼ばれていたものもこのカテゴ
          リーに入る
 
【内因性うつ病】
 
特定の原因が見当たらないうつ病で、簡単にいえば、心因性、身体因性を除いたものを内因性うつ病と分類します。本来の大うつ病や双極性障害もこれに分類され、下位分類として以下の3つがあります。

双極性障害‥‥いわゆる躁うつ病
単極性うつ病‥‥うつ状態が繰り返し起きる
退行性うつ病‥‥中年期以降に発症
 
主に体質や遺伝的な要因によって引き起こされるうつ病と考えられてきました。とはいっても、多くは心理的ストレスや喪失体験等をきっかけとして発症します。したがって内因性と心因性の両者を区別することは実際にはとても難しいのです。


興味を引いたのは、心因性うつ病】の下位分類「神経症性うつ病」のカテゴリーに抑うつ神経症を入れていることです。心因性うつ病が性格的なものや環境の影響が大きいことからしても、もしかすると、心因性うつ病はこれまでさんざん書いてきた次の定義にあてはまるかもしれません。
 
気分変調性障害 or 気分変調症(dysthymia)」≒「抑うつ神経症(neurotic  depression)」≒「慢性小うつ病(chronic minor)  心因性うつ病 」:「非定型うつ病」・・・ということです。

今回ご紹介した「うつ病を原因論から捉える分類」は、現在も診断名として用いている精神科医も少なからずいらっしゃるようですが、現状に即して考えると、少々曖昧な面があるかもしれません。あくまでも診断名としてですが。

だからといって、精神疾患におけるDSM(精神疾患の分類・診断のマニュアルと基準)やICD(国際疾病分類)が適正かといえばそんなことはなく、結局は現時点での、診断する側のためのラベリングに過ぎないのですけれど。。
 

次回から(相変わらず不定期ですが)、うつ病についての様々な研究結果をもとに、現状におけるうつ病の実態や治療法について書いていくつもりです。